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Author:rekikyo
大阪大学歴史教育研究会の公式ブログです。
原則として事務局スタッフの記事を中心に週一更新、その他告知や参加メンバーによる投稿等があれば随時掲載します。

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「歴史基礎」の一本化をめざして

1.はじめに
 日本学術会議が提言している「歴史基礎」について、大学入試科目にすべきかどうかということに対して、高橋徹先生から反論をいただいており、そのことについて意見を示す必要があるのだが、現在のところ歴史基礎は3案あり、それを一本化しない限り、歴史基礎が新科目となる可能性は低いので、今回はそのことについて記したい。
 大阪大学歴史教育研究会に参加されている後藤誠司先生が事務局長である京都高等学校社会科研究会から依頼を受け、3月17日、油井大三郎先生の「高校の歴史教育をどう改革するか―新科目の創設と思考力育成型教授法への転換―」という講演の後、私は「どのような『歴史基礎』が望ましいか―歴史基礎の内容および今後に向けての問題点―」と題した発表を行った。以下の記述は発表内容そのままでなく、当日の議論を含めて少し(後半はかなり)改変しているので、その点を了承していただきたい。

2.高校での世界史の学習状況
 私が社会科教育法を担当している大阪大学および奈良教育大学の学生のレポートによると、彼らが習った世界史Aが本来の近現代史中心ではなく、世界史全体の一部であり、しかもその範囲が多様であることがわかる。世界史Aであるにもかかわらず世界史Bの初めから古代まで、中世のみもしくは中世から近代まで、大航海時代もしくは市民革命やアヘン戦争から、さらに20世紀以降、その他では中国史中心と、それぞれの高校で範囲は様々であった。ここからわかることは、多くの受験校では世界史Aは大学受験科目である世界史Bの補完として扱われており、選択の世界史Bを学んだ生徒は何とか世界史全体を学べることになるが、多数の必修の世界史Aしか学ばない生徒は世界史のごく一部しか学ばないということである。
 このように学習範囲は多様であるが、授業方法については講義中心で括弧を穴埋めし入試で出そうなところを強調するという点ではかなり共通性があることがわかる。背景や関連事項を詳しく説明してもらったという学生もいたが、残念ながら少数派であった。
 日本学術会議が提唱している歴史的思考力の育成という方針については賛成という意見が多数であったが、そのためにはセンター試験の改善が必要という声が圧倒的であった。歴史基礎については、日本史・世界史・地理を選択にすべきという意見が結構あったが、それでも賛成が反対をやや上回っていた。
 私が3月30日に大阪大学歴史教育研究会で発表した「大学教員からみた学生の世界史知識状況」によると、多くの教員が世界史についての知識が低下していると感じ(1) 、歴史の流れを理解していない、時事的な関心が低い、歴史への批判的な問題意識が低下している、といった認識をしており、個々の教員がそうした事態に対応している様子が窺える。

3.日本学術会議の「歴史基礎」について
 日本学術会議の提言については、学術会議のホームページからご覧いただくこととして、歴史基礎の1案は、時系列で世界の歴史の概観を示しているが、古代・中世・近世の部分が多く、日本史部分が少ないと評価できる。2案については近現代集中型ということで、18世紀後半以降から現在までを概観し、その中で日本の役割が触れられているので、現在を重視し日本史を組み込むという見地から、これに賛意を表したいところであるが、問題は高校現場の授業時数として70時間を確保することがかなり難しいということである。3案については、主題編成型ということであったが、地域世界の成立と統合過程、および近代以降の歴史というのは、1989年学習指導要領時の世界史Aの内容に類似しており(2)、それに東アジアの中の日本史を加えた構成と解釈できる。
 今後のスケジュールを考える上で、新学習指導要領作成時の状況について触れると、2003年に現行学習指導要領が実施されるとともに教育課程実施調査が行われ(3)、2005年から中央教育審議会の教育課程についての審議が始まり、2008年に答申が出され(4)、同年、小学校・中学校の学習指導要領、2009年高等学校学習指導要領が告示された。今回は2016年ごろに中央教育審議会への諮問が予想されるので、2015年までには歴史基礎案の一本化は必要で、そのために考えうる案を以下で示した。
 まず、学術会議の1案に対しては、世界史を背景とした日本の歴史ということで、古代・中世では東アジア史、近世は東アジア史およびヨーロッパ史、近代はヨーロッパ史および東アジア史、現代は世界史を背景に日本史を入れ、その際高校日本史のリード文や古代・中世については現在検定中の高校世界史Aの「ユーラシアの文明」の記述を参考に今後考えていきたい。
 2案に対しては、現在の時点まで進むという観点から、20世紀を中心とする案を提示し、実際に行われている実践例として、東京都の笹川和則先生と群馬県の飯塚勇一先生の試み(5)を紹介した。3案については、諸地域世界をかつての『高校世界史』の9地域にアメリカ大陸を2つに分けた10地域世界(6)と諸地域世界の交流として2・8・13・16・17・18・19世紀を扱い、ついで20世紀史前半を簡単にして、20世紀後半から詳しく扱うという案を示した。そのほかの考えとしては、2012年から韓国で実施されるはずの「東アジア史」(7)を扱うことも考えられ、その際10世紀初頭まで、10世紀から16世紀前半、16世紀前半から19世紀中頃、19世紀中頃から20世紀中頃、20世紀後半からに分けて、東アジア全体を取り上げる案を示した。

4.歴史基礎の問題点について
 歴史基礎の問題点としては、地理教育の側が小・中・高等学校を一貫したカリキュラムを持っているのに(8)、歴史教育の側にはそれがないこと、また歴史教育についても近代の時期について、世界史と日本史で異なることを示した。前者については、今回の学習指導要領作成時に小学校と中学校をつなげた社会科教育の構想があったが、社会系教科としては高校での世界史未履修問題がおこったので、それについての論議は進まなかったとのことであった(9)。社会科と異なり、国語科では「A 話すこと・聞くこと」、「B 書くこと」、「C 読むこと」という項目が小学校・中学校を通してあり、学年ごとに内容が記述されている。また、算数・数学科および理科も類似した項目で学年ごとに内容が記述されている。社会科については従来とほぼ同様で、小学校3・4年が地域学習、5年が国土・産業学習、6年が歴史・政治・国際理解学習で、中学校1年が地理的・歴史的分野、2年で地理的・歴史的分野、3年が歴史的・公民的分野とされた。中学校歴史的分野はこれまでの105時間から新学習指導要領では130時間となったが、世界史的分野は「宗教の誕生とひろまり」、「イスラムの拡大とヨーロッパの変化」、「大航海時代」、「イギリスの議会政治」、「近代国家の形成」、「日本を取りまく世界情勢」、「グローバル化が進む社会」で新設もしくは少し詳しくなった程度で、「時代の特色を捉える学習」や地域調査と発表・評価に多くの時間をとることになりそうである。そうした中で、韓国のように「歴史」を独立した教科とすれば(10)、小学校での歴史で「日本の通史」を行い、中学校の歴史的分野で世界史や東アジア史を行うことも可能であるが、そうした社会科の分化に反対し、社会科の総合を主張される方々も多いように思われるので、歴史教育の一貫性を主張しても、実現にはかなりの困難があると思われる。
 後者については、中学校や高校日本史では近代といえば、ペリーが来航する19世紀半ば以降をさすのであるが、高校世界史では少し事情が異なり、世界史が登場したころに出された学習指導要領ではルネサンスから「近代社会」が始まっていた(11)。こうした傾向はしばらく続いたが、1978年の学習指導要領で、18世紀後半からが近代とされ、89年でも同様とされたが(12)、1999年の学習指導要領で近代がさかのぼり、「大航海時代」が始まる16世紀以降が近代とされた(13)。このように、近現代という定義自体が異なり、学術会議の提言でも1案は16世紀、2案は18世紀後半以降を近代としている。この点に関して、私自身は16世紀以降を世界史での近世としてとらえる考えを提案したい。
 新学習指導要領でも「近年、16世紀から18世紀までを近世という一つのまとまりのある時代としてとらえる見方が広く認められるようになってきた」(14)とされ、世界史における近世は注目されているが、その反面「従前と同様16世紀から19世紀後期までを近代ととらえ、・・・近代以降の学習においては、ウォーラーステインの『近代世界システム論』などの視点からダイナミックに世界史を把握させる方法も参考になろう」(15)とされている。とはいえ、この「世界システム論」は「ある歴史理論が広く共有されて歴史教育の現場に応用されるようになった時分には、すでにその有効性を疑問視されて批判の対象となり、学界での影響力も低下している」(16)のであり、10年後を見据えた場合、新たな「近世」像を構築することは必要と思われる。その際、筆者が注目するのは、山下範久氏と杉山清彦氏の考えであり、山下氏はこの時期に世界各地で登場する5つの「帝国」に(17)、杉山氏はユーラシア各地の巨大帝国の並立(18)に着目される。おそらくは、世界史における近世の特徴は、この時期にアジアに登場した帝国の存在ゆえに、19世紀と異なり当時におけるヨーロッパの進出は内陸にはおよばなかったということになろうと思われる。

5.歴史的思考力について
 油井先生の講演について、最も意見が集中したのが歴史的思考力の問題であった。私自身は昨年度、奈良教育大学の中学校社会科教育法の授業で、学生の模擬授業の際に、まず「導入」で生徒が関心を持つような教材を提示すること、ついで「展開」では年表や資料を見て生徒が気付く点を指摘させ、ついでそこから何が読み取れるか、さらになぜそうなったかと考えさせるという過程を取り、最後に生徒にそうした問題に対してどうすればいいか自分の意見を記述させるというように指導した。こうした経験を生かして、世界史で歴史的思考力を育成する授業を考えたいと思っている。
 とはいえ、この点について、現在でも世界史が膨大で、現場では新自由主義に基づく競争原理が横行している状況では、歴史的思考力の育成などとてもできないという指摘があった。私も教育「改革」の嵐が吹きすさんでいる大阪府の元教員であり、知り合いがまだ勤めているので、この点についての問題点は承知している。大阪府の進学特色校は京大・阪大・神大の合格者数の数値を学校目標としており、そうなると必修の歴史基礎は結局、世界史もしくは日本史の代替科目として扱われ、歴史基礎など誰もしないという声がいくつか届いている。
 けれどもそこで、高等学校で社会科(地理歴史科)の授業をすることの意味というものを思い起こすべきではないだろうか。この1年間「地歴融合」について連載を重ねてきた『社会科教育』で、永田忠道氏は社会科という科目が誕生した際、「青少年の現実生活の問題を中心」とするカリキュラム編成が図られ、「青少年が社会生活上で直面する可能性の高い世界・国内・地域の現実的・将来的な社会問題を歴史的な事例も取り上げながら考えていく」ためのカリキュラム編成の実現を期待したい(19)と結ばれた。高校社会科は不幸にも1989年の学習指導要領で地理歴史科と公民科に分離したが、世界史が必修とされたのは「国際化の進展をはじめとする社会の変化に対応して高等学校生徒に必要とされる資質を養うという視点などから、世界の歴史をすべての生徒に学ばせることとした」(20)という理由である。私自身は、生徒がこの科目を学んで「ふだんの生活や社会生活の中で役立つ」と思える教育内容を創るべきだと考えており、そのためにも現在の世界がわかるという観点が新科目に生かされることを期待したい。

6.おわりに
 「高校での世界史学習状況」で示したように、受験校では世界史Aはセンター入試で受験する世界史Bの一部として扱われ、生徒は選択の世界史Bを履修すると何とか世界史全体を学べるが、選択で他科目を選んだ大多数の生徒は、世界史のほんの一部しか学ばない状態で高校を卒業する。そうした事態は社会科の発足時や世界史の創設時の理念から外れていることは明らかであり、そうした事態を打開するために新しい世界史像(歴史基礎)を構築しなければならないと考える。
 この点について、私は今年度中に公開される新学習指導要領に基づく世界史と日本史の教科書を分析して、できるだけ早く日本史を含んだ世界史という歴史基礎についての試案を試みたいと思っている。ただ、そうした試みは現場を離れている私よりも、現在世界史(歴史)の授業をされている先生方の方が、有利な立場にある。私がこのブログで記述していることについて、どの分野でもいいので、自分はこう考えているもしくはこのような実践をしているといった前向きな事例を提供していただけると幸いである。
 油井大三郎先生は講演の最後で、新「歴史基礎」統一案について、高校現場の実践と歴史研究者の協力による作成をと呼び掛けられた。このブログをご覧になった先生方のこの試みへの積極的な参加をお願いして、本稿を終えたい。(文責:中村薫(奈良教育大学特任准教授))

(1) 一例をあげると、ある教員は「世界史が必修となっているにもかかわらず、フランス革命のような花形のテーマでもほとんど学んだことがないという学生が存在する」と記しているが、30~40年前の日本史・世界史・地理のすべてを学んだ世代とそのうち2科目を学べばいい現在とでは、大きなギャップがあるのはある意味当然であろう。
(2) 1989年の学習指導要領で、世界史Aは「(1)諸文明の歴史的特質」「(2)諸文明の接触と交流」「(3)19世紀の世界の形成と展開」「(4)現代世界と日本」という構成であった。
(3) 『平成15年度高等学校教育課程実施調査報告』が2005年12月に出されたが、「当該教科の勉強は、大学受験や就職試験に関係なくても好きだ」や「ふだんの生活や社会生活の中で役立つよう、当該科目を勉強したい」という問いに対して、「そう思う」という生徒の回答は、地理や日本史の方が世界史を上回っている。
(4) 現行の高等学校学習指導要領が実施された2003年12月に学習指導要領の一部が改訂され、中央教育審議会への諮問は通常より早く行われたが、教育基本法の改正により審議会の答申は通常より遅れることとなった。
(5) 笹川先生は帝国主義から現在までを6つに時代区分し、時代区分ごとに生徒の意見を配布して生徒の意見を聞くという実践を、飯塚先生は世界の地誌についてのドリルをした後、19世紀の世界を簡単に振り返り、その後20世紀史を通した後、戦後の地域史を授業するという実践を示された。
(6) かつて、実教出版の『高校世界史』(1979年版)は、9つの地域世界を提案したが、その西アジア・北アフリカ世界を西アジアのみにし、中学校地理的分野で北アメリカと南アメリカを取り上げていることから、アメリカ世界を2つにした。
(7) 権五鉉「韓国社会科教育課程の改訂と歴史教育の改革―歴史科目の独立と『東アジア史』の新設」『社会科研究』第69号、2008年、58頁。
(8) 山口幸男他編『地理教育のカリキュラム創造―小・中・高一貫カリキュラム―』古今書院、2008年、7~8頁。
(9) 2009年に同志社大学で開かれた全国社会科教育学会での北俊夫氏の発言による。
(10) 権五鉉、前掲稿、52頁。
(11) 『中学校高等学校学習指導要領社会科編Ⅲ(a)日本史(b)世界史(試案)』明治図書、1952年、57頁。
(12) 1978年の学習指導要領では「19世紀の世界」、1989年の学習指導要領では「近代の変容」という大項目が設定された。
(13) 佐伯・澁澤・原田編著『高等学校学習指導要領の展開 地理歴史編』明治図書、2010年、30頁。
(14) 文部科学省『高等学校学習指導要領解説 地理歴史編』教育出版、2010年、18頁。
(15) 原田智仁編著『高等学校新学習指導要領の展開 地理歴史編』明治図書、2010年、37頁。
(16) 深沢克己「高校世界史と大学の歴史教育を結ぶもの」『学術の動向』2011年10月号、日本学術協力財団、25頁。
(17) 山下範久『世界システム論で読む日本』講談社選書メチエ、2003年、51~52頁。
(18) 杉山清彦「近世ユーラシアのなかの大清帝国」『清朝とは何か』別冊環⑯、藤原書店、290頁。
(19) 永田忠道「“地歴融合”社会科のこれからを考える」『社会科教育』2012年3月号、明治図書、115頁。
(20) 『高等学校学習指導要領解説 地理歴史編』文部省、実教出版、1989年、11頁。

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